福井市安居地区に古くから伝わる「オシッサマのお渡り」。初めて見た時は、はるか昔から続く伝統的な雰囲気がとても印象的でした。
今回オシッサマのお渡りを盛り上げる青年団のみなさんにもお話をうかがい、お祭りを楽しんできました。
深く知ることでさらに味わい深くなるお渡り神事。ぜひ記事を読んで来年は見に行ってみましょう。
福井市の安居地区で200年以上続いているオシッサマのお渡り
2024年10月12日、13日の2日間にオシッサマのお渡りが開催されました。
オシッサマのお渡りは高雄神社の秋祭りとして開催されます。高雄神社は安居地区で一番大きな神社。
福井駅から京福バス「桜ヶ丘団地線」にのり約25分。「本堂」で下車します。バスを降りたら西へ進みます。二つ目の曲がり角で右へ。オシッサマのお渡りが開催される週末には大きな提灯が下げられています。
オシッサマのお渡りは福井県指定無形民俗文化財にも指定されている伝統的なお祭り。毎年10月の第2土、日曜日におこなわれます。福井市ではちょうど小中学校の秋休みに重なる時期。地元の小中学生もたくさん参加します。
県外から帰省するご家族も多く、地区を上げての一大イベントです。
オシッサマとは獅子のような姿をした神様。高雄神社の境内にある宵の宮に、もう一体の神様であるハナオッサマとともに祀られています。
オシッサマは日本神話に出てくる天鈿女(あめのうずめ)、ハナオッサマは猿田彦(さるたひこ)という神様です。
毎年オシッサマのお渡りでは、1日目に宵の宮から約800m離れた松手の宮にお渡りをします。そして、翌日にまた松手の宮から宵の宮へ戻ってきます。
大規模で派手なお祭りではありません。しかし、200年あまり続いており、地域の人々によってどんな時も絶えず受け継がれてきた歴史ある神事です。
はじまりは古い言い伝えから
オシッサマのお渡りには始まりとなる言い伝えがあります。
昔、村には怪物が住んでいました。怪物を鎮めるために村から子どもをいけにえに差し出していました。
松手の宮のすぐそばには「死児の橋(しにこのはし)」と彫られた石碑があります。昔話ではよくある話ですが、石碑があるだけで現実味を帯びてきますね。
お渡りの初日には実際に、人身供養に関わった家をオシッサマが回ります。なんだかマンガの世界みたいですね。
ある時、村の怪物の話を聞いたお侍さんがやってきて村の4人の士と共に怪物をやっつけました。
そのお侍さんは猿田彦の子孫でした。お侍さんを称えるためにお祭りがはじまったそうです。
お侍さんと一緒に怪物を倒した家は守護職と呼ばれ、お祭りで重要な役割を担います。お渡りでオシッサマを担当するのも守護職の家の人たち。
獅子舞のような姿をしたオシッサマ。神衣を揺らしながら進む姿は、外の人からみてもかっこいいです。小さい頃からオシッサマのお渡りを見てきた地区の男の子たちはオシッサマによくあこがれるそうです。
「実際には守護職の家の男子しかオシッサマにはなれないのでショックを受ける」と青年団のみなさんが話してくれました。
ちなみに2024年は四家のうちの一家が代がわりする特別な年でもありました。
日本各地には代々続くお祭りが今もたくさんあります。その中でオシッサマのお渡りは一度も絶えることがなかったという点でとても珍しいそうです。
戦時中も、明かりを消して神事をおこない、コロナが流行った年も規模を縮小して万全の態勢で続けていました。
秋祭りなどもコロナ前の活気を取り戻しました。また多くの人が参加することで長く続いていってほしいと思います。
2日間のお渡り神事は見所がたくさん
お祭りの前月から夜には太鼓の練習の音が響きます。太鼓をたたくのは青年団の方々。
本祭の前々日におこなわれる「御神衣切り」。オシッサマがまとっている越前和紙の神衣を作ります。越前和紙を使っているところがとても福井らしいです。
土曜日は七郷廻りから始まります。七郷は皿毛、本堂、羽坂、細坂、安田、堀北、恐神の安居地区の中の7つの地域。その中で人身供養を出した十四軒をオシッサマと共にまわり供養します。
地図で見ると大変広い地域であることがわかります。
今はオシッサマのお渡りというと高雄神社の本堂がメインとなっていますが、もともと安居地区全体のお祭りだったようです。
夜に宵の宮祭がはじまります。宵の宮祭は高雄神社にある宵の宮から死児の橋があった松手の宮までのお渡り。
高雄神社からまさにオシッサマが出てくる瞬間。お祭りが始まるという気持ちもふくらみ、ぜひ見てほしい瞬間だと地元の方に教えてもらいました。
ちょうど夜には周りの提灯にも明かりが灯りとても神秘的な雰囲気です。
そして、もちろん、松手の宮にオシッサマとハナオッサマが駆け込む瞬間も見所。だんだんと早くなるリズムに合わせて動きが荒々しくなる様子は見ごたえがあります。
松手の宮につくとオンモクが行われます。オンモクとはうるち米ともち米を混ぜて作ったご飯です。
松手の宮の天井部分には板敷きがあり、青年団のみなさんが上り、オンモクを握って手を差し出します。参拝者は彼らの手からオンモクを取り合います。
オンモクを食べると家内安全、無病息災に御利益があるそうです。
オンモクは本祭でも越前和紙にくるんで配られます。ちょっと独特な味わいですが、子どももぱくぱくと食べていました。
オシッサマとハナオッサマは松手の宮で一晩過ごします。
日曜日におこなわれる本祭は午後にスタート。今度は松手の宮からスタート。
お祓い神事がおこなわれた後に、松手の宮からオシッサマとハナオッサマの行列が歩き始めます。
先頭にハナオッサマ。その後ろには地域の子どもたちが続きます。
サイヨリミヨリ、イテデコデントイコマイカ、センコノハシヲコシタナラ、イケーチチヲニギラシテ、ナンバミソイヤナラゴットミソ」とくり返しながら歌います。
子どもたちがよく覚えていて驚きます。ちょっと声が小さくなると周りの大人が囃すのもほほえましいです。
その後ろをオシッサマが歩き、青年団の太鼓が続きます。オシッサマの歩みはとてもゆっくり。松手の宮から高雄神社まで800mという距離ですが約1時間半続きます。
とてもゆっくり進むので最初は驚きました。お天気がよく少し暑いくらいの天気でした。
青空にオシッサマやハナオッサマがよく映えます。雨の日でも必ずおこなわれるので、オシッサマには専用の雨がっぱがあるそうです。
高雄神社に続く参道に下げられた小田原提灯。そこに着くと最後の見せ場があります。多くの人がクライマックスを見ようと集まっていました。
オシッサマが目の前を通るとやはり特別な気持ちがします。お祭りはとても不思議な力がありますね。
その後、高雄神社の拝殿では秋季例祭神事が行われます。境内では催し物が始まりいい木にお祭りムードに。地域の人がたくさん集まる秋祭りは夜まで続きます。
オシッサマのお渡りは夜と昼で雰囲気も違いとても美しいです。村を彩る提灯も幻想的ですよ。
たくさんの人が繋いでいくオシッサマのお渡り
オシッサマのお渡りはテレビでも紹介され、毎年いろいろな人が注目しています。
大きく目立つお祭りではありませんが、古き良き日本を感じる厳かな雰囲気はとても魅力的。
昔から続く習慣が多く残っているのも興味深いです。200年続いてきたのは地域の人がていねいに伝えてきたからなのかなと思います。
時代の流れの中で、男子だけが参加していた行事に女子も参加できるようにと少しずつ変わってきた部分もあるようです。
今回青年団のみなさんにお話をうかがいに行きました。オシッサマのお渡りに熱い気持ちをそれぞれ持っていることが印象的でした。若い人がお祭りを盛り上げようとする姿からいいお祭りであることがよく伝わります。
子どもから年配の人までオシッサマのお渡りをみんなで見ている様子もすてきでした。
地域の人がたくさん関わってきたから、みんな思い入れがあり、守られてきたのかなと思います。
これからも長く、伝統的な姿のままのオシッサマのお渡りが続いていくことを願います。
お渡りは誰でも見に行くことができるので、ぜひ一度足を運んでみてください。
福井県無形民俗文化財「オシッサマのお渡り」
住所:福井県福井市本堂町5-10
アクセス:福井駅から京福バス「桜ヶ丘団地」線「本堂」下車徒歩約2分
開催期間:2024年10月12日(土)-10月13日(日)
開催時間:10月12日20:00-22:30
10月13日13:00-15:00